第19話「静止した闇の中で」
「えっ? 使徒、捕まえちゃったんですか?」
相当に思いがけなかったのだろう、シンジはティーカップを口元へ運ぶ途中で止めたまま、あんぐりと口をあけた。
その隙をついてレンタロウ。シンジのケーキを横からみゃあとかっさらった。
とっくにリツコの実家に預けられるはずが、シンジが気に入ってしまったためもあって、未だにリツコのマンションでほのぼのと暮らしている。
リツコの食べ物を奪うときついお仕置きをされてしまうので、レンタロウが狙うのはいつもシンジの分だ。
それでも、いつもなら「あ、こら」と無駄な叱責のひとつも聞こえて来るものだが、今のシンジはそれどころではなかったらしい。みゃうみゃう? とレンタロウは首を傾げて様子をうかがう。
碇シンジはまだ固まっていた。
「そんなに驚くほどのことでもないでしょう?」
向かいに座る赤木リツコは、やれやれと自分の分のケーキをシンジの前に押しやりながら笑った。
「ほら、ぼんやりしてると、それもレンタロウの口に入ってしまうわよ」
「だ、だって」
とりあえずごくりと紅茶を一口。
「エヴァもなしに、どうやって?」
「使徒を殲滅するにはエヴァはどうしても必要だけども、捕獲には必ずしも必要というわけじゃあないもの。いえ、そもそもエヴァを使って捕獲というのは無理なのよ。使徒とは相容れない存在だから」
リツコが飲むのは紅茶ではなくコーヒー。夜も更けているし面倒だったのでインスタントだ。
「まあ、うまくいくかどうかはあまり自信がなかったけれど。ミサトと加持くんが頑張ってくれたわ」
「加持さん、ですか?」
「ちょっとミスがあってね、加持くん。首が飛んじゃうところだったのを起死回生の志願よ。マグマの中で使徒を発見して、遠隔操作の電磁ケージで使徒を捕縛して」
くすくすとおかしそうに笑う。
「よくやるわ、彼も」
「無茶苦茶じゃないですか? もし失敗していたら……」
「加持くんが死んで、あなたたちが沖縄から急遽呼び戻されて、エヴァで殲滅。それだけのこと。問題はないわ」
「問題なくはないですよ、そんなの」
「あら。使徒を殲滅する自信がないの?」
「そ、そうじゃなくて。逆ですよ。最初からぼくがエヴァで殲滅すればそれで良かったじゃないですか。こんなので加持さんが死んじゃったら。ミサトさんだってアスカだって……」
「あのね、シンジくん」
煙草に火をつけながら、赤木リツコは目を細めた。
「世の中はそれほど単純じゃないわ。使徒を殲滅することがネルフの目的ではあるけど、そればかりで動いているのでもない。分かるでしょう? 碇司令も、冬月副司令も、加持くんもミサトも、それぞれに自分の人生を描いて生きている。あなたがエヴァで使徒を殲滅したいと思うのと同じように、ね」
「それは……そうだと思いますけど。でも」
「人の幸せなんて、他人がとやかく口出し出来るものでも、押しつけられるものでもないわ。結果がどう転ぶにせよ、その時その時、自分で決めた道を進んでいくしかないのよ、たぶんね」
「ぼくには……よくわかりません」
「そうかしら?」
唇をかみしめたシンジの前で、吐き出された煙はゆっくりと天井へとたなびいた。
「シンジくんだってそれはよく分かっているから。今、こうしているのじゃないのかしら?」
「ぼくは……ぼくは分からないから。分からなかったから。だから、確かめたくて、きっと」
すり寄ってきたレンタロウを抱きあげて、シンジはほうっと溜息をついた。
「いえ。ぼくも自分のことしか考えてないんですよね」
「それは悪いことではないわよ。あなたの倍も生きている私だって、所詮、自分のことしか考えられないもの。それが人間なんだと最近は思うわ」
「リツコさんは……大人のひとなんですね」
「なに、それ?」
ぷっと吹き出した赤木リツコ博士。
「年寄りだって皮肉?」
焦って否定するシンジに、表情を緩ませる。
「馬鹿なことばかりやってる気がするけど。これが大人っていうのもね。……それより、沖縄はどうだったの? 楽しかった?」
「あんまり。その」
「楽しくなかったの? こっちで残ってたほうがずっと良かった?」
「いえ。楽しくなかった……ってわけでもないです。アスカにひっぱりまわされたし。綾波もなんか変なことやってたし。使徒は気になってましたけど、それなりには。少しだけだけど、クラスにも馴染めました」
「そう。それは良かったわ」
リツコはにっこりと微笑んだ。
「あまりエヴァや使徒に拘らないほうがいいわ、シンジくんは。思い詰めすぎても何も得るものはないわよ」
「はい。……そうします。それで……捕まえた使徒は?」
「言ってるそばから、それ?」
「あ。ごめんなさい」
「まあ、いいわ。仕方ないわよね、気になるのは」
肩をすくめながらリツコは新聞を手渡した。
「え? 新聞に? 使徒が載ってるんですか? うわ、ほんとだ。どうして?」
「今までうまくやってきたんだけど。さすがに浅間山で発見されて、捕獲作戦で派手に動いたから隠しきれなくなってね。ある程度公開することになったの」
「ドイツに移送されたんですか、使徒」
「記事にはね。それは表向き。実際はまだここに居るわよ。ジオフロントの地下にね」
「え?」
「ここから出すつもりは碇司令にはないわ。でも、第三市の真下に使徒が居るなんて、さすがに発表できないから」
「ここにって。大丈夫なんですか? 暴れ出したりとか」
「胎児の状態の使徒なら、ほぼ完璧にコントロールできるのよ。エヴァを近づけない限り、大丈夫よ」
へえ、と感心して、シンジはふたたび新聞の真偽ないまぜになった記事に目を落とした。
「エヴァのことまで載ってるんですね。……市街地実験?」
「ええ、来週ね。マスコミへのお披露目も兼ねてるんだけれど。エヴァ全機、第三市郊外で外部携帯電源による稼働テストをやってもらうわ」
「来週、ですか? ああ」
とシンジは納得した。
その頃、ジオフロント・ネルフ本部地下、ターミナルドグマ・コキュートス第三層。
碇ゲンドウと冬月コウゾウは特設されたケージにいた。
明かりは灯らず、非常灯の輝きだけが薄ぼんやりと二人の影を闇の中に浮かび上がらせている。
「しかし加持くんもよくやったな」
「三度目の失敗はないからな」
「若いというのか。羨ましく思うね」
「アダムが失われた今、なにかで代替されねばならない。使徒の捕獲は運命の黙示だよ」
「とはいってもな、碇。うまくいくとは私には思えなかったがね」
「だが、ここにこうして胎児のままの使徒がある。なにも問題はない」
「ふうむ」
目の前に拘束具と電磁柵とで固定された使徒を見上げて唸る冬月コウゾウ。
ぬめった体液にまみれて眠りつく胎児の巨大な影が、不気味にのしかかる。
「とはいうものの。少し大きすぎないかね?」
碇ゲンドウは無言になった。
「こんなものと、おまえ、融合する気か?」
「な、なにも使徒そのものを取り込むわけではない。使徒として活動中の遺伝子さえ抽出できればいい」
「適合するかね?」
それでも首を捻る冬月。
「巨大化したりしてな。レイならともかく、巨大化したお前など見たくないぞ」
「ふ、問題ない」
「巨大化したいのか?」
碇ゲンドウは嫌そうに冬月を睨んだ。
「そうではない。巨大化などせんと言っている」
「冗談のわからんやつだ」
白々と嘲笑った冬月コウゾウは、実は子どもの頃に好きだったビッグXに少し憧れていた。
「なんにせよ、こうなったら槍の回収を急がねばならんな」
「ああ」
あちこちに齟齬を生みながらも、人類補完計画はどうにかこうにか進んでいた。
同じく闇の中。
ただし、薄ぼんやりと二人の影を映すのは非常灯の明かりではなく、ベッドサイドの艶やかな照明。
第三新東京市はずれのモーテルの一室だった。
「なあ、葛城?」
汗も乾いてきて寒くなったのか、加持リョウジはごそごそと掛け毛布を肩までひっぱりあげた。
「なあに?」
気怠げに答える葛城ミサトは、吸い終わった煙草を枕元の灰皿にもみ消している。
「お前、俺が死んでもいいと思ったか?」
「なによ、今頃」
ミサトも毛布に潜り込んで肌を寄せた。
「死んでいい人とこんなことしてるわけないでしょ」
「だけど、冷たかったぞ、お前の声。探査船はギシギシきしんでるのに、あと300、だもんなあ」
「ばか」
「おぃ、そこは痛いって」
「あたしだって加持くんと同じくらい怖かったわよ。でもさ……」
「ん? ああ、そうだな。いや、すまん。お前のことは知ってるんだがな」
「……うまくいってないのよ、あたし」
「なにがだ? 押しも押されぬネルフ本部作戦部長。そろそろ昇進の話も出てるんだろう?」
「それはそうだけど。実際に使徒を倒してるのはあたしじゃなくて、シンジくんたちだしね」
「そりゃあ、お前はパイロットじゃないから、当然だろ。作戦部長は兵隊じゃないぞ」
「でもね。あたしにはあの子たちの気持ちはなんにもわかんないのよ。あの子たちだって、あたしよりリツコのほうを信頼してるみたいだし」
「リッちゃん、か。リッちゃんもしばらく会わない間にずいぶん変わったな」
「加持くんもあたしよりリツコのほうがいい?」
「脅しながら訊くなって。使えなくなったらどうすんだ」
「あ、ちょっと、やだ」
「リッちゃんはリッちゃん。おまえはおまえさ。らしくないぞ」
「ん……ふ。だ、だからね。あたしの手で使徒を倒せるチャンスは手放せなかったの。どうしても、ね」
「ああ、わかるよ」
「……ねえ。加持くんこそ、なんであんな危険な任務、志願したのよ。あんた、ネルフ本部の正規職員じゃないくせに」
「俺か? 俺は葛城とこんなことをするためさ」
「あん。な、なによ、ごまかして」
「ごまかしてるわけじゃないさ……おまえこそ、葛城」
「ん?」
「使徒の捕獲成功を祝ってくれるためだけに、こんなとこに来てるんじゃないんだろ?」
「……そうね」
葛城ミサトは真顔にもどった。
「少し、気になることがあんのよ」
相当に思いがけなかったのだろう、シンジはティーカップを口元へ運ぶ途中で止めたまま、あんぐりと口をあけた。
その隙をついてレンタロウ。シンジのケーキを横からみゃあとかっさらった。
とっくにリツコの実家に預けられるはずが、シンジが気に入ってしまったためもあって、未だにリツコのマンションでほのぼのと暮らしている。
リツコの食べ物を奪うときついお仕置きをされてしまうので、レンタロウが狙うのはいつもシンジの分だ。
それでも、いつもなら「あ、こら」と無駄な叱責のひとつも聞こえて来るものだが、今のシンジはそれどころではなかったらしい。みゃうみゃう? とレンタロウは首を傾げて様子をうかがう。
碇シンジはまだ固まっていた。
「そんなに驚くほどのことでもないでしょう?」
向かいに座る赤木リツコは、やれやれと自分の分のケーキをシンジの前に押しやりながら笑った。
「ほら、ぼんやりしてると、それもレンタロウの口に入ってしまうわよ」
「だ、だって」
とりあえずごくりと紅茶を一口。
「エヴァもなしに、どうやって?」
「使徒を殲滅するにはエヴァはどうしても必要だけども、捕獲には必ずしも必要というわけじゃあないもの。いえ、そもそもエヴァを使って捕獲というのは無理なのよ。使徒とは相容れない存在だから」
リツコが飲むのは紅茶ではなくコーヒー。夜も更けているし面倒だったのでインスタントだ。
「まあ、うまくいくかどうかはあまり自信がなかったけれど。ミサトと加持くんが頑張ってくれたわ」
「加持さん、ですか?」
「ちょっとミスがあってね、加持くん。首が飛んじゃうところだったのを起死回生の志願よ。マグマの中で使徒を発見して、遠隔操作の電磁ケージで使徒を捕縛して」
くすくすとおかしそうに笑う。
「よくやるわ、彼も」
「無茶苦茶じゃないですか? もし失敗していたら……」
「加持くんが死んで、あなたたちが沖縄から急遽呼び戻されて、エヴァで殲滅。それだけのこと。問題はないわ」
「問題なくはないですよ、そんなの」
「あら。使徒を殲滅する自信がないの?」
「そ、そうじゃなくて。逆ですよ。最初からぼくがエヴァで殲滅すればそれで良かったじゃないですか。こんなので加持さんが死んじゃったら。ミサトさんだってアスカだって……」
「あのね、シンジくん」
煙草に火をつけながら、赤木リツコは目を細めた。
「世の中はそれほど単純じゃないわ。使徒を殲滅することがネルフの目的ではあるけど、そればかりで動いているのでもない。分かるでしょう? 碇司令も、冬月副司令も、加持くんもミサトも、それぞれに自分の人生を描いて生きている。あなたがエヴァで使徒を殲滅したいと思うのと同じように、ね」
「それは……そうだと思いますけど。でも」
「人の幸せなんて、他人がとやかく口出し出来るものでも、押しつけられるものでもないわ。結果がどう転ぶにせよ、その時その時、自分で決めた道を進んでいくしかないのよ、たぶんね」
「ぼくには……よくわかりません」
「そうかしら?」
唇をかみしめたシンジの前で、吐き出された煙はゆっくりと天井へとたなびいた。
「シンジくんだってそれはよく分かっているから。今、こうしているのじゃないのかしら?」
「ぼくは……ぼくは分からないから。分からなかったから。だから、確かめたくて、きっと」
すり寄ってきたレンタロウを抱きあげて、シンジはほうっと溜息をついた。
「いえ。ぼくも自分のことしか考えてないんですよね」
「それは悪いことではないわよ。あなたの倍も生きている私だって、所詮、自分のことしか考えられないもの。それが人間なんだと最近は思うわ」
「リツコさんは……大人のひとなんですね」
「なに、それ?」
ぷっと吹き出した赤木リツコ博士。
「年寄りだって皮肉?」
焦って否定するシンジに、表情を緩ませる。
「馬鹿なことばかりやってる気がするけど。これが大人っていうのもね。……それより、沖縄はどうだったの? 楽しかった?」
「あんまり。その」
「楽しくなかったの? こっちで残ってたほうがずっと良かった?」
「いえ。楽しくなかった……ってわけでもないです。アスカにひっぱりまわされたし。綾波もなんか変なことやってたし。使徒は気になってましたけど、それなりには。少しだけだけど、クラスにも馴染めました」
「そう。それは良かったわ」
リツコはにっこりと微笑んだ。
「あまりエヴァや使徒に拘らないほうがいいわ、シンジくんは。思い詰めすぎても何も得るものはないわよ」
「はい。……そうします。それで……捕まえた使徒は?」
「言ってるそばから、それ?」
「あ。ごめんなさい」
「まあ、いいわ。仕方ないわよね、気になるのは」
肩をすくめながらリツコは新聞を手渡した。
「え? 新聞に? 使徒が載ってるんですか? うわ、ほんとだ。どうして?」
「今までうまくやってきたんだけど。さすがに浅間山で発見されて、捕獲作戦で派手に動いたから隠しきれなくなってね。ある程度公開することになったの」
「ドイツに移送されたんですか、使徒」
「記事にはね。それは表向き。実際はまだここに居るわよ。ジオフロントの地下にね」
「え?」
「ここから出すつもりは碇司令にはないわ。でも、第三市の真下に使徒が居るなんて、さすがに発表できないから」
「ここにって。大丈夫なんですか? 暴れ出したりとか」
「胎児の状態の使徒なら、ほぼ完璧にコントロールできるのよ。エヴァを近づけない限り、大丈夫よ」
へえ、と感心して、シンジはふたたび新聞の真偽ないまぜになった記事に目を落とした。
「エヴァのことまで載ってるんですね。……市街地実験?」
「ええ、来週ね。マスコミへのお披露目も兼ねてるんだけれど。エヴァ全機、第三市郊外で外部携帯電源による稼働テストをやってもらうわ」
「来週、ですか? ああ」
とシンジは納得した。
その頃、ジオフロント・ネルフ本部地下、ターミナルドグマ・コキュートス第三層。
碇ゲンドウと冬月コウゾウは特設されたケージにいた。
明かりは灯らず、非常灯の輝きだけが薄ぼんやりと二人の影を闇の中に浮かび上がらせている。
「しかし加持くんもよくやったな」
「三度目の失敗はないからな」
「若いというのか。羨ましく思うね」
「アダムが失われた今、なにかで代替されねばならない。使徒の捕獲は運命の黙示だよ」
「とはいってもな、碇。うまくいくとは私には思えなかったがね」
「だが、ここにこうして胎児のままの使徒がある。なにも問題はない」
「ふうむ」
目の前に拘束具と電磁柵とで固定された使徒を見上げて唸る冬月コウゾウ。
ぬめった体液にまみれて眠りつく胎児の巨大な影が、不気味にのしかかる。
「とはいうものの。少し大きすぎないかね?」
碇ゲンドウは無言になった。
「こんなものと、おまえ、融合する気か?」
「な、なにも使徒そのものを取り込むわけではない。使徒として活動中の遺伝子さえ抽出できればいい」
「適合するかね?」
それでも首を捻る冬月。
「巨大化したりしてな。レイならともかく、巨大化したお前など見たくないぞ」
「ふ、問題ない」
「巨大化したいのか?」
碇ゲンドウは嫌そうに冬月を睨んだ。
「そうではない。巨大化などせんと言っている」
「冗談のわからんやつだ」
白々と嘲笑った冬月コウゾウは、実は子どもの頃に好きだったビッグXに少し憧れていた。
「なんにせよ、こうなったら槍の回収を急がねばならんな」
「ああ」
あちこちに齟齬を生みながらも、人類補完計画はどうにかこうにか進んでいた。
同じく闇の中。
ただし、薄ぼんやりと二人の影を映すのは非常灯の明かりではなく、ベッドサイドの艶やかな照明。
第三新東京市はずれのモーテルの一室だった。
「なあ、葛城?」
汗も乾いてきて寒くなったのか、加持リョウジはごそごそと掛け毛布を肩までひっぱりあげた。
「なあに?」
気怠げに答える葛城ミサトは、吸い終わった煙草を枕元の灰皿にもみ消している。
「お前、俺が死んでもいいと思ったか?」
「なによ、今頃」
ミサトも毛布に潜り込んで肌を寄せた。
「死んでいい人とこんなことしてるわけないでしょ」
「だけど、冷たかったぞ、お前の声。探査船はギシギシきしんでるのに、あと300、だもんなあ」
「ばか」
「おぃ、そこは痛いって」
「あたしだって加持くんと同じくらい怖かったわよ。でもさ……」
「ん? ああ、そうだな。いや、すまん。お前のことは知ってるんだがな」
「……うまくいってないのよ、あたし」
「なにがだ? 押しも押されぬネルフ本部作戦部長。そろそろ昇進の話も出てるんだろう?」
「それはそうだけど。実際に使徒を倒してるのはあたしじゃなくて、シンジくんたちだしね」
「そりゃあ、お前はパイロットじゃないから、当然だろ。作戦部長は兵隊じゃないぞ」
「でもね。あたしにはあの子たちの気持ちはなんにもわかんないのよ。あの子たちだって、あたしよりリツコのほうを信頼してるみたいだし」
「リッちゃん、か。リッちゃんもしばらく会わない間にずいぶん変わったな」
「加持くんもあたしよりリツコのほうがいい?」
「脅しながら訊くなって。使えなくなったらどうすんだ」
「あ、ちょっと、やだ」
「リッちゃんはリッちゃん。おまえはおまえさ。らしくないぞ」
「ん……ふ。だ、だからね。あたしの手で使徒を倒せるチャンスは手放せなかったの。どうしても、ね」
「ああ、わかるよ」
「……ねえ。加持くんこそ、なんであんな危険な任務、志願したのよ。あんた、ネルフ本部の正規職員じゃないくせに」
「俺か? 俺は葛城とこんなことをするためさ」
「あん。な、なによ、ごまかして」
「ごまかしてるわけじゃないさ……おまえこそ、葛城」
「ん?」
「使徒の捕獲成功を祝ってくれるためだけに、こんなとこに来てるんじゃないんだろ?」
「……そうね」
葛城ミサトは真顔にもどった。
「少し、気になることがあんのよ」