第14話「人の造りしもの」
「護衛艦だかなんだか知んないけど。これって沈んだりしないでしょうね?」
目にしていた双眼鏡をおろして、甲板でそんな失礼なことを口にしているのは葛城ミサトである。
横に立つ海上自衛隊護衛艦艦長は、なにを失礼なことを怒ってもしかるべきだったが、そう言われると自分でもなんだかあやうく思えてしまうほどに。
海上に上半身を見せるエヴァンゲリオン三体の存在感は圧倒していた。
改装を重ねられているとはいっても基体はセカンドインパクト前にすでに就役していた老朽艦だ。いやに人間じみた不気味の固まりロボットが気まぐれに水遊びでも始めた日には。ひとたまりもなく沈んでしまいそうな気がする。
噂に聞けばパイロットは年端もいかぬ子どもだとか言う話だし。
その指揮をするという責任者は、目の前のやたらとおちゃらけたネエチャンだし。
なんでこんな任務が自分に回ってくるかなあ、と艦長は表情には出さないが心は号泣していた。
陸海空自衛隊が国連軍として編入されてしまうことになったおりに、戦略自衛隊に転職しておけば良かった。
戦自ならば、こんな得体のしれないロボットに付き合う義理はなかったのに。
ネルフと同じく国連の支配を受ける海上自衛隊としては、もちろん断るなんて選択肢はない。
しかも、この作戦の概要がどうにもくだらない。使徒を相手にやりあうっていうのなら命賭ける意気込みも湧いてこようが。
「んー、宝探しゲームみたいなもんなのよ」
けらけらと笑う暢気そうな女指揮官に、艦長は辟易するのだった。
「あれがJAってやつ?」
エヴァンゲリオン弐号機の視点でそのデカブツを眺めて、惣流アスカ。だっさぁ〜と言いたげな調子で初号機碇シンジに通信を繋いだ。
『うん。たぶん、そうだよ』
なんだか頼りなさそうな声が返ってくる。
この通信を聞いているだろうネルフ本部のことをおもんばかり、しらばっくれている、わけでもない。
海面に浮かぶエヴァ三体と違って、こちらはタンカーを改造したらしい輸送空母みたいな船の上にどっかりとそびえて立っているくろがねの無骨なロボット。
胸に『ジェットアローン』と大書してあるから多分JAなのだろうが、碇シンジの記憶とはずいぶん形が違うような気がしたからだ。
どちらかといえば逆三角形のようであった体格が、逆にぐっと寸胴で、頭部のほうは流線型になっている。腰にはごてごてとハワイの腰巻きの如くおかしな機材が垂れ下がっていた。
「フラダンスでもやる気かしら?」
惣流アスカは馬鹿にしたように首を傾げたが、相撲技かプロレス技は出せてもフラダンスはできないジェットアローン。碇シンジにも見覚えのないその装備は、急遽整備された海中推進機構なのだが、まあ、そんなことはアスカにはどうでもいい。
「要するに、あのヘンテコなロボットより先に、目標を見つければいいのよね」
『見つけるだけじゃなくて、回収するんだよ』
「んなこた、あったりまえでしょうが。いちいちトリアシとってんじゃないわよ」
あやしげな日本語で文句を付けながらふふんとアスカ。ギョロリとモニタ越しにシンジを睨んだ。
「あんたにも負けないからね。あたしの弐号機が一番に見つけたら、あんた、あたしの言うこと何でもきくのよ?」
『なんだよ、それ。なんでぼくがアスカの言うこと、きかなくちゃならないんだよ』
「へへーん。無敵のシンジ様は、負けるつもりなんだ?」
『そうじゃないけど。でもぼくが勝ったらどうするのさ?』
「あんたが? そうねえ、そん時はあたしを自由にさせたげるわよ。あんなことでもこんなことでも……。どぅお?」
『うっ』
最近節操がなく、妄想癖がある碇シンジ少年。誇らしげにプラグスーツを押し上げる胸をうりうりと見せつけられ、あらぬことを夢想して膨張してしまったかどうかは定かでなかったが、瞳はやる気を見せた。
と。
ぴろろん、とアスカのディスプレイに新たな窓が開く。
「な、なによ、ファースト?」
『……私も』
「へ?」
『……やるの』
「あ、あんたもこの賭に参加しようっての?」
モニタの向こうで柔らかな髪がこくりと揺れた。
綾波レイ、割り込んできたその瞳は燃えている。
「いいわよ。勝負よ、ファースト! 三人の中で誰が一番優秀か、みせてやるわ」
それぞれのエントリープラグで子どもたちがぼぉっと炎を背負い、ネルフ本部の解析システムはシンクロ率の上昇を記録した。
さて。賭には参加しないが、エヴァには負けておれないJA。
輸送船の艦橋では日本重化学工業共同体JAプロジェクト統括責任者、時田シロウが愛児を見るような視線を我らがJAに降り注いでいた。
「どんなもんだね、時田くん」
と、その背に声を掛けた初老の男は、地味なスーツの上に作業衣を着込んでいるが、軍人である。戦略自衛隊から派遣されてきた。
海上自衛隊護衛艦の艦長は、戦自に移籍しておればこんなことに付き合わなくても良かったのにと嘆いていたが、その戦略自衛隊もきっちりと関わり合っていたのだった。
JAの開発には、表沙汰にはできないが日本政府がからんでいる。いざ実用段階になれば、当然運用するのは日本軍である戦略自衛隊だ。
国連には頭が上がらないとはいえ、日本国内で治外法権どころか政府に圧力さえ掛けかねないネルフには、割り切れない思いを持っている。というか、相当むかついている。
使徒は国連にお任せ下さい、といわれたって国内でどんぱちやられて、はいお願いしますというわけにはいかないのである、政府としては。セカンドインパクトの地獄を見てきた国民は、旧世紀のように危機管理を放棄していても知らんふりの無責任体質ではなくなっている。
のんびりしていては政権を維持できない。ネルフに頼らずとも自分たちの手でいざというときのカードを握っておきたかった。
それにまた。エヴァだと金を吸い取られるだけだ。もし使徒戦の主力兵器を日本国が提供できたら、これまで吸い上げられた金を数十倍にして取り戻せる。
そのためのJA。
なんとか運用試験をクリアし、着実に実用実戦に向けて調整しているときに、舞い込んできた挑戦状、ならぬ合同運用試験計画案。
国連のいうには、使徒がどこからやってくるのかはよくわからんが、太平洋のどっかじゃないかなあという気がする、と。なら、出来得るならば上陸される前、海中で叩いておいたほうが被害も少ないし良策である。
そのために、エヴァの海中運用試験を執り行いたいのだが、協力して欲しい。ついては、JAも参加してはいかがなものか、と。
仲良しこよしの組織同士ではないから、連れションに誘われたわけではない。
要するに日本政府との取り決めで、A−17なんてふざけた緊急時特務指令が国連から発令されない限り、ネルフ権限によるエヴァの運用は第三新東京市並びに旧東京方面放置区域内に限る、というお約束を無しにしてくれ、という虫の良い依頼だ。JAは、単にダシにされただけだろう。
が。おもしろいじゃないか、わはは、エヴァよりJAのほうが優秀だということ、全世界に見せてくれるわ、と重化学工業共同体は世界最高峰の技術力をもっていた旧世紀の夢を再びとばかりにこの話に飛びついた。
「ご心配なく、JAを信頼して下さい」
と時田シロウは声を掛けてきた軍人を振り返った。
「エヴァだかなんだかしらないが、あんな神話のお化けのようなものに負けるJAではありません。これこそ純粋な科学の力ですよ」
エヴァがたとえどんな力をもっているにせよ、見たところ単なる人型巨大人造人間に装甲を張り巡らせただけだ。泳いでいるのがちょっと信じられないくらい。
それに比べてJAは、完全な機械部品だけである分、装備に応用が利く。海中推進機構をとりつけた今は、一種の原子力潜水艦みたいなものになっている。
どう考えたって、理論的に負けるはずがないのであった。
「うむ。期待しておるよ。しかし、試験案は向こうの出してきたものだからな」
戦自の武官はそれでもやはり一抹の不安を拭いきれないのか。
「大丈夫です。もちろん兵備にはまだ改良の余地が多いのですが。今回の実験は戦闘試験ではありませんからね」
「そうだな」
試験項目は単純だ。一言で言えば、海中機動性試験。
太平洋日本近海のどこかに、小さなトランクを沈めているという。それを発見し、回収すること。
くだらない。まことにくだらない。
がはは、楽勝楽勝と時田シロウが微塵も疑いもせず、我が勝利を信じ切るのも無理からぬところであった。
ネルフのほうは。
己の命賭けてこの作戦原案を作成、ついでに国連、日本政府への裏工作までやってのけた加持リョウジに抜かりがあるわけもなし。
抜かりがあったら、責任問題どころか、たぶん、太平洋の底に自分が沈んでいる。コンクリートの衣装付きで。
もっともエヴァの能力を信じ切っているわけではない。エヴァはもともと海中運用を考慮して作られたものではないからだ。
もしうまくエヴァ三体のいずれかがアダムの眠るトランクを発見回収してくれればそれでいいが、回収どころか発見すらできない可能性がある。
そのためのJA。
原潜では実現できない機動性を発揮してくれるだろう。うまくJAがトランクを発見回収してくれた暁には。
ちょっとコンピュータにバグが発生する仕組みになっている。
そうすりゃ、多分、碇司令が重々しく言うのだ。
「JAを使徒と認定する」と。
鳶にあぶらげ、棚からぼたもち、笑いが止まりませんな作戦なのであった。
「たのんますよ、JA。それに葛城」
ネルフ本部の発令所で大スクリーンに映る洋上からの中継を眺めながら。
加持リョウジはそっと祈った。
「そううまくいくかしら?」
「おいおい、リッちゃん。縁起でもない」
ぼそっと呟かれた赤木リツコ博士の声に、加持は顔をしかめる。
「ミサトには。内緒なんでしょ、この作戦? あの子たちにも」
「まあ。ちょっと汚なすぎるしな」
加持リョウジはニヒルに肩をすくめ、赤木リツコはアルカイックな笑みを見せた。
「人の浅はかさを思い知らされる結果にならなければいいけれど?」
「おいおい」
ぼそぼそと会話を交わすその前で、本部居残りで現地にいる葛城ミサトをサポートするおるすばん日向マコトが報告した。
「実験開始時刻です!」
太平洋の護衛艦艦橋では、葛城ミサトが同じく声高らかに発令した。
「んじゃ、いくわよ。よーい。どん」
目にしていた双眼鏡をおろして、甲板でそんな失礼なことを口にしているのは葛城ミサトである。
横に立つ海上自衛隊護衛艦艦長は、なにを失礼なことを怒ってもしかるべきだったが、そう言われると自分でもなんだかあやうく思えてしまうほどに。
海上に上半身を見せるエヴァンゲリオン三体の存在感は圧倒していた。
改装を重ねられているとはいっても基体はセカンドインパクト前にすでに就役していた老朽艦だ。いやに人間じみた不気味の固まりロボットが気まぐれに水遊びでも始めた日には。ひとたまりもなく沈んでしまいそうな気がする。
噂に聞けばパイロットは年端もいかぬ子どもだとか言う話だし。
その指揮をするという責任者は、目の前のやたらとおちゃらけたネエチャンだし。
なんでこんな任務が自分に回ってくるかなあ、と艦長は表情には出さないが心は号泣していた。
陸海空自衛隊が国連軍として編入されてしまうことになったおりに、戦略自衛隊に転職しておけば良かった。
戦自ならば、こんな得体のしれないロボットに付き合う義理はなかったのに。
ネルフと同じく国連の支配を受ける海上自衛隊としては、もちろん断るなんて選択肢はない。
しかも、この作戦の概要がどうにもくだらない。使徒を相手にやりあうっていうのなら命賭ける意気込みも湧いてこようが。
「んー、宝探しゲームみたいなもんなのよ」
けらけらと笑う暢気そうな女指揮官に、艦長は辟易するのだった。
「あれがJAってやつ?」
エヴァンゲリオン弐号機の視点でそのデカブツを眺めて、惣流アスカ。だっさぁ〜と言いたげな調子で初号機碇シンジに通信を繋いだ。
『うん。たぶん、そうだよ』
なんだか頼りなさそうな声が返ってくる。
この通信を聞いているだろうネルフ本部のことをおもんばかり、しらばっくれている、わけでもない。
海面に浮かぶエヴァ三体と違って、こちらはタンカーを改造したらしい輸送空母みたいな船の上にどっかりとそびえて立っているくろがねの無骨なロボット。
胸に『ジェットアローン』と大書してあるから多分JAなのだろうが、碇シンジの記憶とはずいぶん形が違うような気がしたからだ。
どちらかといえば逆三角形のようであった体格が、逆にぐっと寸胴で、頭部のほうは流線型になっている。腰にはごてごてとハワイの腰巻きの如くおかしな機材が垂れ下がっていた。
「フラダンスでもやる気かしら?」
惣流アスカは馬鹿にしたように首を傾げたが、相撲技かプロレス技は出せてもフラダンスはできないジェットアローン。碇シンジにも見覚えのないその装備は、急遽整備された海中推進機構なのだが、まあ、そんなことはアスカにはどうでもいい。
「要するに、あのヘンテコなロボットより先に、目標を見つければいいのよね」
『見つけるだけじゃなくて、回収するんだよ』
「んなこた、あったりまえでしょうが。いちいちトリアシとってんじゃないわよ」
あやしげな日本語で文句を付けながらふふんとアスカ。ギョロリとモニタ越しにシンジを睨んだ。
「あんたにも負けないからね。あたしの弐号機が一番に見つけたら、あんた、あたしの言うこと何でもきくのよ?」
『なんだよ、それ。なんでぼくがアスカの言うこと、きかなくちゃならないんだよ』
「へへーん。無敵のシンジ様は、負けるつもりなんだ?」
『そうじゃないけど。でもぼくが勝ったらどうするのさ?』
「あんたが? そうねえ、そん時はあたしを自由にさせたげるわよ。あんなことでもこんなことでも……。どぅお?」
『うっ』
最近節操がなく、妄想癖がある碇シンジ少年。誇らしげにプラグスーツを押し上げる胸をうりうりと見せつけられ、あらぬことを夢想して膨張してしまったかどうかは定かでなかったが、瞳はやる気を見せた。
と。
ぴろろん、とアスカのディスプレイに新たな窓が開く。
「な、なによ、ファースト?」
『……私も』
「へ?」
『……やるの』
「あ、あんたもこの賭に参加しようっての?」
モニタの向こうで柔らかな髪がこくりと揺れた。
綾波レイ、割り込んできたその瞳は燃えている。
「いいわよ。勝負よ、ファースト! 三人の中で誰が一番優秀か、みせてやるわ」
それぞれのエントリープラグで子どもたちがぼぉっと炎を背負い、ネルフ本部の解析システムはシンクロ率の上昇を記録した。
さて。賭には参加しないが、エヴァには負けておれないJA。
輸送船の艦橋では日本重化学工業共同体JAプロジェクト統括責任者、時田シロウが愛児を見るような視線を我らがJAに降り注いでいた。
「どんなもんだね、時田くん」
と、その背に声を掛けた初老の男は、地味なスーツの上に作業衣を着込んでいるが、軍人である。戦略自衛隊から派遣されてきた。
海上自衛隊護衛艦の艦長は、戦自に移籍しておればこんなことに付き合わなくても良かったのにと嘆いていたが、その戦略自衛隊もきっちりと関わり合っていたのだった。
JAの開発には、表沙汰にはできないが日本政府がからんでいる。いざ実用段階になれば、当然運用するのは日本軍である戦略自衛隊だ。
国連には頭が上がらないとはいえ、日本国内で治外法権どころか政府に圧力さえ掛けかねないネルフには、割り切れない思いを持っている。というか、相当むかついている。
使徒は国連にお任せ下さい、といわれたって国内でどんぱちやられて、はいお願いしますというわけにはいかないのである、政府としては。セカンドインパクトの地獄を見てきた国民は、旧世紀のように危機管理を放棄していても知らんふりの無責任体質ではなくなっている。
のんびりしていては政権を維持できない。ネルフに頼らずとも自分たちの手でいざというときのカードを握っておきたかった。
それにまた。エヴァだと金を吸い取られるだけだ。もし使徒戦の主力兵器を日本国が提供できたら、これまで吸い上げられた金を数十倍にして取り戻せる。
そのためのJA。
なんとか運用試験をクリアし、着実に実用実戦に向けて調整しているときに、舞い込んできた挑戦状、ならぬ合同運用試験計画案。
国連のいうには、使徒がどこからやってくるのかはよくわからんが、太平洋のどっかじゃないかなあという気がする、と。なら、出来得るならば上陸される前、海中で叩いておいたほうが被害も少ないし良策である。
そのために、エヴァの海中運用試験を執り行いたいのだが、協力して欲しい。ついては、JAも参加してはいかがなものか、と。
仲良しこよしの組織同士ではないから、連れションに誘われたわけではない。
要するに日本政府との取り決めで、A−17なんてふざけた緊急時特務指令が国連から発令されない限り、ネルフ権限によるエヴァの運用は第三新東京市並びに旧東京方面放置区域内に限る、というお約束を無しにしてくれ、という虫の良い依頼だ。JAは、単にダシにされただけだろう。
が。おもしろいじゃないか、わはは、エヴァよりJAのほうが優秀だということ、全世界に見せてくれるわ、と重化学工業共同体は世界最高峰の技術力をもっていた旧世紀の夢を再びとばかりにこの話に飛びついた。
「ご心配なく、JAを信頼して下さい」
と時田シロウは声を掛けてきた軍人を振り返った。
「エヴァだかなんだかしらないが、あんな神話のお化けのようなものに負けるJAではありません。これこそ純粋な科学の力ですよ」
エヴァがたとえどんな力をもっているにせよ、見たところ単なる人型巨大人造人間に装甲を張り巡らせただけだ。泳いでいるのがちょっと信じられないくらい。
それに比べてJAは、完全な機械部品だけである分、装備に応用が利く。海中推進機構をとりつけた今は、一種の原子力潜水艦みたいなものになっている。
どう考えたって、理論的に負けるはずがないのであった。
「うむ。期待しておるよ。しかし、試験案は向こうの出してきたものだからな」
戦自の武官はそれでもやはり一抹の不安を拭いきれないのか。
「大丈夫です。もちろん兵備にはまだ改良の余地が多いのですが。今回の実験は戦闘試験ではありませんからね」
「そうだな」
試験項目は単純だ。一言で言えば、海中機動性試験。
太平洋日本近海のどこかに、小さなトランクを沈めているという。それを発見し、回収すること。
くだらない。まことにくだらない。
がはは、楽勝楽勝と時田シロウが微塵も疑いもせず、我が勝利を信じ切るのも無理からぬところであった。
ネルフのほうは。
己の命賭けてこの作戦原案を作成、ついでに国連、日本政府への裏工作までやってのけた加持リョウジに抜かりがあるわけもなし。
抜かりがあったら、責任問題どころか、たぶん、太平洋の底に自分が沈んでいる。コンクリートの衣装付きで。
もっともエヴァの能力を信じ切っているわけではない。エヴァはもともと海中運用を考慮して作られたものではないからだ。
もしうまくエヴァ三体のいずれかがアダムの眠るトランクを発見回収してくれればそれでいいが、回収どころか発見すらできない可能性がある。
そのためのJA。
原潜では実現できない機動性を発揮してくれるだろう。うまくJAがトランクを発見回収してくれた暁には。
ちょっとコンピュータにバグが発生する仕組みになっている。
そうすりゃ、多分、碇司令が重々しく言うのだ。
「JAを使徒と認定する」と。
鳶にあぶらげ、棚からぼたもち、笑いが止まりませんな作戦なのであった。
「たのんますよ、JA。それに葛城」
ネルフ本部の発令所で大スクリーンに映る洋上からの中継を眺めながら。
加持リョウジはそっと祈った。
「そううまくいくかしら?」
「おいおい、リッちゃん。縁起でもない」
ぼそっと呟かれた赤木リツコ博士の声に、加持は顔をしかめる。
「ミサトには。内緒なんでしょ、この作戦? あの子たちにも」
「まあ。ちょっと汚なすぎるしな」
加持リョウジはニヒルに肩をすくめ、赤木リツコはアルカイックな笑みを見せた。
「人の浅はかさを思い知らされる結果にならなければいいけれど?」
「おいおい」
ぼそぼそと会話を交わすその前で、本部居残りで現地にいる葛城ミサトをサポートするおるすばん日向マコトが報告した。
「実験開始時刻です!」
太平洋の護衛艦艦橋では、葛城ミサトが同じく声高らかに発令した。
「んじゃ、いくわよ。よーい。どん」