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第1話「使徒、襲来」

「お待たせ!」

「遅い! なにやってたんですか!?」

「え?」

 初対面の少年に頭ごなしに怒鳴りつけられ、唖然とする葛城ミサト。あまりの非常識さに状況も忘れる。

 少年は遠慮も無しにミサトが運転してきた青いルノーに乗り込んだ。

「早く! 出して!」

「え、ええ」

 また一機、国連軍の攻撃ヘリが墜落してきた。呆然としている場合では無かろう。しかし。

 なによ、この子。むっかつくわねえ。

 使徒強襲の混乱の中でロストしてしまい出迎えが遅れたのは確かにこちらの落ち度だが、それにしても初対面の年上にその態度はないだろうとじわじわ怒りがこみ上げてくる。

「もっとスピード、出ないんですか?」

 少年はそんな彼女の思いも知らぬげに、偉そうにガンガン急かし続ける。

「やってるわよ。ベラベラしゃべってっと、舌、噛むわよ?」

 もしも全てがうまくいってこれを乗り切れたら。

 ギッタンギッタンにしばいてやる!

 ミサトはギリと奥歯を噛みしめ、非常事態宣言で人気のない街並み抜けてネルフ本部へとアクセルを踏み込んだ。



 碇シンジだって葛城ミサトに喧嘩を売るつもりではないのだけれど。

 こんなところでグズグズしている暇はないのだ。またもやN2地雷で吹き飛ばされるなんてのは御免被りたい。

 思い返せば、あの爆風で大怪我負わなかったのは僥倖ってもんだ。下手をすれば死んでいてもおかしくない。

 一刻も早くネルフ本部へ。一刻も早くエヴァ初号機を起動して。一刻も早く使徒殲滅。

 相手は第三使徒。こんなしょっぱなでコケてしまうわけにはいかないのである。

 だって。

「カヲルくん……」

 は最後の使徒だから。

 早く逢いたいよ、カヲルくん。ぼくはそのために戻ってきたんだ……。



「ちょっとシンジくん、勝手に走っていかないで」

 途中のんびりと観戦などせずひたすら爆走し続けたおかげで、N2地雷使用の前にミサトの車はジオフロントに到着した。迎えが遅れたというのに到着は予定時刻より早いくらいだ。

 ところがシンジは本部に到着するなり、ミサトを待たずに駆け出した。

「あんた、道なんて知らないでしょ?」

「知ってますよ、子どもの頃、よく遊びに来てたから」

 追いすがるミサトを振り向きもせずに、必死に駆けながら答えを返す。

「え? そうなの?」

 んー、碇司令の息子だから、知っててもおかしくないのか、な?

 たとえ本部の地理を知っていたからといって、それが案内なしにエヴァケージへ一目散に駆け出すことの説明にはなっていないのだが、動転しているときには少々の矛盾には気が付かないものだ。なんとはなく腑に落ちない気もするものの、元来お気楽なミサトは納得してしまった。

 それに、中学生のくせに脚が速い。置いて行かれたら、自分のほうが迷っちゃうかも知れないのであった。

 遠くN2地雷の振動がネルフ本部を緩く揺るがせたとき、シンジは初号機ケージに到着していた。



 LCLに沈む凶眼の悪鬼エヴァンゲリオン初号機。アンビリカルブリッジに駆け込んだ少年を見下ろす。

「あ、巨大ロボット」

 と一応言ってみるシンジ。お約束だから。

「あら、早かったのね」

 ぷかりとLCLから人影が浮かび、水面に漂いながら水中マスクを金髪に跳ね上げる。LCLに潜って初号機の整備に勤しんでいた赤木リツコ博士の意外の声だ。

「ミサトにしては上出来ね。……なに息、切らしているの?」

 少年の後ろでゼエゼエと肩を震わせている友人に呆れる。

「あ、リツコ。……整備、ご苦労さん。……サ、サードチルドレン、連れてきたわよ」

 連れられてきた、のほうが正確なような気はするが。走り疲れていた。

 赤木リツコは解しかねて眉をひそめるも、まあ、グズグズされるよりはマシね、と視線をシンジに向けようとして。

「そ。あなたが碇シンジ君ね? ……って、グエ」

 ガツンと脳天に衝撃を受け、LCLにガブリ沈んだ。

 アンビリカルブリッジを蹴ったシンジが、リツコの頭を踏み台にし、LCLの池を渡って初号機に飛び移ったのだ。

「すごいジャンプ力……」

 あまりといえばあまりの行動に何とも言いかねたミサトは、とりあえず妙なところに感心した。ついでに、ぷかありと背中向けてLCL土左衛門と化した金髪の友人をブリッジに引っ張り上げる。

「死んだかな?」

 相当に痛かったのだろう、白目をむいている。

「なんとも無茶苦茶な子ねえ。さすがは碇司令の息子だわ」



 その碇司令が、ようやく姿を見せた。

「久しぶりだな、シンジ……。どこだ?」

「やあ、父さん」

「なにをしている?」

 3年ぶりの息子はエヴァ初号機の首元を這い登っていった。

「なにって、なんのためにぼくを呼んだのさ?」

「これに乗って使徒と戦ってもらう」

「でしょ。なら問題ないよ。乗るよ、戦うよ、早く出撃させてよ」

「……ううむ」

 と今更ながらに碇ゲンドウが迷ってしまったことを責められはすまい。俺の息子はこんな性格だっただろうかと不安を感じた。

 碇シンジ14歳。多感な時期ではある。3年も会っていないのだからずいぶん変わっていても不思議ではないが、それにしても。

「開かないよ、父さん! 電気、来てないの!? ディーゼルでも何でも使って開けてよ!」

 エヴァ初号機後頭部のエントリープラグ挿入口でスイッチを叩きまわしている息子はものすごく不審だ。

 無理矢理にでも乗せるつもりだったが、しぶると予想していた相手が積極的だと歯車が合わない。冷厳な表情のままで、ものすごく困った。

「ミ、ミサト。今、なにが起こったの? もう使徒が攻めてきたというの? ううん、頭が割れそうだわ」

 なぜか赤木博士は頭を抱え込んでうんうん唸っているし、葛城作戦部長はなにやらいつもに増してぼけた顔をさらしているし。

 ……困ったときはじいさんの出番だ。

「冬月。予備を使いたくなくなった。レイを起こしてくれ」

 唯一信頼の出来る副官を呼び出す。知り合う前に留置場の中から呼び出しても飛んできてくれた頼もしい先生だからな。

『いや、それが碇……』

「どうした?」

 コンソールの画面に現われた冬月コウゾウは、これまたひどく焦った顔をしていた。

『レイをロストした』

「なに?」

 零号機起動実験の事故で全身ズタボロになって病院でうなっているはずの綾波レイ。それをロストするなどあり得ない。

「どういうことだ?」

 もしかして、とてつもなくまずい事態が知らぬところで進んでいるのではなかろうかと背筋を凍らせる碇ゲンドウであった。

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